【News】未知の感染症?ニホンザル謎の大量死 - 京都大学霊長類研究所

モンキーセンター、2匹発症で全300匹殺処分 感染拡大に備え方針 - 中日新聞

2010年7月17日 朝刊

 愛知県犬山市の京都大霊長類研究所で起きていた未知の病原体によるとみられるニホンザルの大量死問題で、隣接する日本モンキーセンターが、園内のサルへの感染拡大が確認されれば飼育するニホンザル約300匹すべてを殺処分する方針であることが分かった。判断基準は2匹の発症を確認した時点としている。

 モンキーセンター付属世界サル類動物園の加藤章園長は「多数のお客さんが訪れる当園では、まず人間の安全を最優先しなければならない。1匹では感染の有無が判断しづらいので、2匹の発症を確認した時点で全匹を殺処分する」と話した。これまでのところ、同センターで発症は確認されていない。

 霊長研側は、疾病を発症したサルと同じおりにいるなどして接触した一部のサルについて、段階的に殺処分することを明らかにしている。

 モンキーセンターは1956年、京大の研究者らが尽力して設立。霊長研はモンキーセンターと協働する京大の研究所として67年に設立され、土地は名鉄から寄贈を受けた。

 また、この問題に絡んで、厚生労働省健康局結核感染症課と農林水産省消費・安全局動物衛生課は15日付で、モンキーセンターなど国内の輸入サル飼育施設に対し、霊長研と同様の症例を確認した場合は情報を提供するよう求めた。


上記のように報道された「財団法人日本モンキーセンター」の方針発表。同センターでは7月12日に『京都大学霊長類研究所で発生している「ニホンザルの原因不明の大量死」について(PDF)』という声明文を公開しています。


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声 明

京都大学霊長類研究所で発生している「ニホンザルの原因不明の大量死」について
平成22年7月12日


 京都大学霊長類研究所では2001 年より、ニホンザルの不審な死亡が続いています。10年近く経過した今でも原因は明らかになっておらず、発症の封じ込めも成功していません。


 京都大学霊長類研究所に隣接する日本モンキーセンター附属博物館世界サル類動物園は、ニホンザルやその亜種であるヤクニホンザルおよそ300 頭を飼育し、感染の危険に常にさらされています。同様に、京都大学霊長類研究所や日本モンキーセンターが所在する犬山市山林には野生のニホンザルが複数生息し、一部の個体は本来の生息域と往来しています。
この地域周辺の野生ニホンザルが感染すれば、日本の固有種であるニホンザルすべてが危険にさらされる可能性があります。


 京都大学霊長類研究所では原因究明の努力はなされておりますが、未だ成功にはいたっていないと思われます。したがって今の感染拡大、ウイルスの変異による強毒化や宿主域の変化など、危険性について述べられる段階には至っていないと考えます。
「現時点でニホンザル以外のサルには感染しない、ヒトへの感染も現時点では認めていない」との見解ですが、再発症、感染封じ込めができないまま何年も経過したことを公表しなかったこと、加えて現在も完全な防護服を使用せず飼育管理が続けられていることなどに強い不信感を抱かざるを得ません。


 日本モンキーセンターとしては今後、密な連絡を京都大学霊長類研究所がとるよう求めると同時に、脅威の拡大をできうる限り少なく、かつ早急に解消するために、ただちに適切な措置を取るよう強く求めます。



財団法人日本モンキーセンター 所長 西田利貞
附属博物館世界サル類動物園 園長 加藤 章

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日本モンキーセンターの京都大学霊長類研究所の対応に対する強いいらだちがうかがえます。ここで論じられている、京都大学霊長類研究所における「ニホンザルの原因不明の大量死」とはどのような事例なのでしょうか? 自分はつい先ほど知ったので調べてみました。(今まで公表されなかったので当然ですが。)


時事ドットコム:ニホンザル、出血症で大量死=未知の感染症か-愛知・京大研究所

 京都大学霊長類研究所(愛知県犬山市)のニホンザルが原因不明の出血症で大量死していたことが9日、分かった。2008年3月~10年4月に38匹が死に、01年7月~02年7月にも6匹が死んだという。ニホンザル以外のサルやヒトへの感染は確認されておらず、同研究所の平井啓久副所長は「未知の疾病とみられるが、ヒトに感染するエボラ出血熱のような感染症とは異なる。ニホンザル特有の疾病の可能性が高い」としている。
 同研究所によると、死んだサルの主な症状は、臓器や鼻粘膜からの出血、暗褐色で泥状の便など。ほとんどの場合、血小板の数がゼロになっていたほか、白血球、赤血球が著しく減少、極度の貧血状態だったという。
 原因は調査中だが、発生場所は研究所の屋内飼育室、屋外放飼場など3カ所に限られており、ニホンザル特有の未知の病原体による感染症の疑いが強いという。
 発症したサルのほとんどが死んだものの、生き残ったサルもおり、今後は他の研究機関とも連携しながら血液などを分析して原因を調べ、疾病の拡大防止にも努める。(2010/07/09-11:50)



驚きました。映画的な原因不明の疾患も怖いですが、京都大学霊長類研究所の情報閉鎖性は批判されて然るべきだと思います。「今後は他の研究機関とも連携しながら血液などを分析して原因を調べ、疾病の拡大防止にも努める」と結ばれていますが、10年もの間隠蔽しておいて自分たちの手に負えないから誰か協力してくださいということ? 2008年からの死亡数は増加しているし、そもそも 2002年8月から2008年2月までの死亡頭数が公開されていません。(京都大学霊長類研究所疾病対策委員会が公開した「ニホンザルの出血症(仮称)について」によると「2002年7月31日に発症した個体を最後に発生がおさまり、その後6年間発生は見られなかった」とのこと。)日本モンキーセンターの指摘にあるように、飼育管理体制は最初の疾患が確認され次第、速やかに非常時のものに切り替えないとまずいでしょう。仮に人間には感染しないとしても、隣接の日本モンキーセンターや野生への拡散リスクはヘッジしないと。

事実、今月のあたまに京都大学霊長類研究所で飼育されているニホンザル十数匹が研究所から脱走する事件が発生。原因不明の感染症があるなか信じられません。。


枝バネに大ジャンプ、サル集団脱走 京大霊長類研究所 - asahi.com(朝日新聞社)

 京都大学霊長類研究所(愛知県犬山市)で飼育されているニホンザル十数匹が、研究所から脱走した。サカキの枝の弾力を使い、高さ約5メートルのフェンスを飛び越えたらしい。捕獲されたり、帰ってきたりして5日昼までにすべて戻ったが、想定外の行動に研究者も驚いている。



現在は京都大学霊長類研究所疾病対策委員会なるものが動いているらしいですが、発足したのは平成22年4月とつい最近。しかも委員長は京都大学霊長類研究所の平井啓久氏で内部組織の模様。事態の改善がみられない点および包括的な検疫観点から然るべき第三者機関が介入したほうがよいのでは?

ニホンザルの出血症(仮称)について【京都大学霊長類研究所疾病対策委員会】 - 日本霊長類学会
ニホンザルの出血症(仮称)について、よくある質問集 - 京都大学 霊長類研究所



宮崎の口蹄疫が収束しない中で発覚したこの病気。国は研究機関に対して危機管理体制の指針を出しているのか? もしくは国の指示の元、今まで情報を公開せずに隠していたのでしょうか? どうしても 1995年に公開された、一匹のサルが持ち込んだウィルスにより全米が滅亡の危機にさらされる恐怖を描いた Dustin Hoffman(ダスティン・ホフマン)主演のパニック・ムービーの傑作『Outbreak(アウトブレイク)[Wikipedia]』を連想してしまう出来事です。また、余談になりますがエボラ出血熱をテーマにした Richard Preston(リチャード・プレストン)の小説『The Hot Zone(ホット・ゾーン)』も高く評価されています。



ちなみに本件を調べる中で、ある学術論文が目にとまりました。

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Mass mortality of Japanese macaques in a western coastal forest of Yakushima

The mass mortality of wild Japanese macaques (Macaca fuscata Blyth) was observed in a warm temperate forest of Yakushima, southern Japan. Demographic changes of eight troops between August 1998 and August 1999 were studied and 56% of macaques disappeared from the five intensively studied troops. Mortality varied among troops: two troops became extinct, while another troop did not decrease in size. The rate of mortality of the other troops was between 33 and 80%. The variation in mortality among the troops was either the outcome of local concentrations of mortality or of intertroop competition. The rate of mortality decreased with increasing distance from the two extinct troops and with increasing troop size; these two factors could not be separated statistically. The direct cause of death was diagnosed as pneumonia for four out of five fresh carcasses. The fleshy fruit production in autumn 1998 was the lowest in 14years, and macaques had relied on leaves earlier than in usual years. It was exceptionally hot and dry in the summer of 1998. The exceptionally poor fruit production and hot summer of this year, with the resulting shortage of high-quality foods, was consistent with the scenario that mass mortality was due to the poor nutritional conditions. However, the possibility that epidemics caused the mass mortality cannot be ruled out. Our findings proved that primates in a seemingly stable habitat experience fluctuations in demographic parameters under natural conditions.

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こちらも同じく京都大学の野生動物研究センター屋久島観察所での研究で、1998年8月から1999年8月にかけての一年間に観察された屋久島におけるヤクシマザルの大量死についての学術論文のようです。

要約すると

観察した一年間で 56% のサルが死亡もしくは行方不明。5つある群れで死亡率は 33% ~ 80% と異なった。直接の死因は 5遺体中 4件が肺炎。1998年の夏は非常に暑く、秋の果物生産量は14年間で最低。こうした食料不足と暑い夏の気候がサルの低栄養状態の原因となり大量死が起こったかもしれない。しかしながら伝染病が大量死を引き起こした可能性も除外できない

という感じでしょうか。


上述した京都大学霊長類研究所で死亡したサルの症状と屋久島で認められた肺炎の症状が同じ、もしくは似ているのか僕にはわかりませんが、双方が同じ京都大学ということもありスタッフを介した病原体の移動、そして検体であるサルが霊長類研究所に持ち込まれた可能性。その空間的つながりに加え、1998年と2001年という時間的つながりも考えられないこともないかな?


いずれにしても早期の対応と原因究明が待たれる事象です。



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